恐怖「油の乗ったコーヒー」
2022年9月15日(木)
制作部 T.K.
最近は、金晩に湖畔の山荘に移住して、そこを起点に自然を楽しむ。今日は特に冷え込んで季節の移ろいを直に感じている。茂っていた葉もだいぶ落ちてきて、湖が広く見える(笑)。
朝のコーヒーが、温かく身に染みて美味しい。今日はコーヒーの話をしよう。
バブル全盛期、私はテレビ番組の仕上げを担うポストプロダクションにいた。中でもCMを主に担当していて、それは15秒~30秒に命を懸ける映像の雄。一日に、3組程の制作会社が、入れ替わり、立ち合いの元、作業を進める。
この時、制作会社の上役から、広告代理店から広告主までも全員集合する。スタジオ設備を見学、ナレーターが芸能人ともなればクライアントも興奮ぎみで、肉声と音楽が映像と合致し「CMが生まれる瞬間」がここで体験できる。
この工程は、中々の見せ場であり、広告主に、CMの出来栄えに満足してもらう、お披露目には、打ってつけの場面である。
そうした訳で制作会社は、もてなしに極上のコーヒーを発注。御用達の喫茶店から若い女性がサーバとカップを持ってきて注いでくれる。私は、制作会社が変わる都度、一日に何杯も美味しいコーヒーをご相伴にあずかる。これが、私の本格コーヒーとの出会いであり、コーヒーをブラックで味わう事も知った。
ある日、コーヒーの表面に「油」が浮いている事に気が付いた。食器、しっかり洗ってないんじゃないの~、何も知らない20代の小僧はそう思った。心霊現象なのか・・・
その後、放送機器の設計業務に転職し、テレビ局、官公庁のと、打ち合わせの席で、あの「油の乗ったコーヒー」に出会う事が何度かあった。
その後も、忙しくも調子に乗った時期に、時々「油の乗ったコーヒー」に出会う。油霊魂の仕業なのか・・・特定のコーヒーでも、豆の種類とか、抽出法でもない・・あくまで、飲むのはただのコーヒーで、必ずと言う訳でもない。 疑問を抱えたまま、数十年
ある日、妻の入れるコーヒーを飲んでいて、「油の乗ったコーヒー」の心霊話をする。数日後。その「油の乗ったコーヒー」を妻が用意してくれた。
数十年も前から取りついていた正体は・・・ 簡単な事で「紙のフィルターを使わない」それだけの事だ、数十年もたって知る。コーヒーの抽出に、油分を吸ってしまう「布」や「紙」を使わずに「ステンレスフィルター」を使うと、「油が乗ったコーヒー」が出来あがる。
エスプレッソの泡はこの脂分だし、バターコーヒーもある位なのに、なぜか、普通のコーヒーの油は軽視されて、紙に吸われて終わる。コーヒー豆の油分を感じる時、脳に人生の快感みたいなものを感じる。極上のコーヒーを飲めるのは、充実した幸せな時。
今日は、ブラジル産のギンギンに黒光りした、大粒の深焙煎の豆を、お気に入りの手回しミルで擦り、ステンレスフィルターで抽出している。オイリーでおいしい・・・
時代を超え、「油の乗ったコーヒー」は、人生の充実期に現われてきた。今は、自然を眺めながら、妻と過ごす、この時間がそうなのかもしれない。